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幻の鶏「シャポーン鹿児島鶏」とは何か ― 鹿児島の生産現場を訪ねて ―

■ 「“鶏肉”という言葉では足りないんです」

鹿児島県鹿屋市。広々とした敷地に、木造の鶏舎が静かに佇んでいた。

迎えてくれたのは、「シャポーン鹿児島鶏」を育てる上山さん

三宅:「今日はよろしくお願いします。早速ですが、この鶏、見た目からして“特別感”がありますね」

上山さん:「そうなんです。“横斑プリマスロック種”という品種で、白と黒の横縞模様が特徴です。肉質もよく、成長も穏やかで、去勢鶏に適しているんですよ」

 

■ “去勢鶏”とは何か? ─ 肉質と命の価値を見直す選択

三宅:「“去勢鶏”って、正直はじめて聞きました」

上山さん:「日本ではほとんど知られていませんが、ヨーロッパ──特にフランスでは『シャポン』と呼ばれ、クリスマスの最高級料理として七面鳥よりも人気があるほどです」

三宅:「どうして普及していないんでしょう?」

上山さん:「理由はシンプルで、“去勢が難しすぎる”んです。雄鶏を生後すぐに外科手術で去勢するんですが、内臓を傷つけるリスクが高く、成功率も低い。技術的ハードルが極めて高いので、日本でこれをやっている人は、ほんの一握りです」

三宅:「なるほど…去勢することで、どう変わるんですか?」

上山さん:「去勢することで“性ホルモンの影響を受けずに”長期間肥育できるようになります。和牛の世界では去勢は当たり前ですよね。雄の肉質は人間もそうですが筋肉質でたくましい体になります。食味はかたい肉質となります。しかし、去勢すると、臭みが取れ、霜降りのように脂がのった肉質になるんです。また、気性が穏やかになるため、長期飼育に適している。見た目の特徴としてはトサカが小さくなるのもポイントです。最近では、雌も去勢する技術を研究して商品化しています。こちらも当たり前ですが、鳥類は性成熟すると卵を生みます。食用の鶏でもおこる生理現象です。卵を生むとやはり肉質は悪化するため若鳥のうちに出荷してしまいます。ただこれでは、その鳥本来の味わいも成熟していないので味の深みが出ません。雌も去勢することで、長期飼育が可能になり味わい深い鶏に仕上がります。

 

■ 肉の味を“極限まで引き出す”ための育て方

三宅:「一般的な鶏と比べると、育て方もかなり違いますか?」

上山さん:「大きな違いは育てる“期間”と“環境”です。

ブロイラーは通常2ヶ月程度、ブランド地鶏でも4〜5ヶ月で出荷されますが、シャポーンは7〜8ヶ月かけてじっくり育てます」

三宅:「それは…倍以上ですね!」

上山さん:「その分、肉の旨みが充実し、脂もレモン色で自然な甘みが出る。焼いたときの香ばしさ、しっとりした食感、そして後味の透明感──どれをとっても別物ですよ」

 

■ “与えないこと”を選ぶ、育て方の哲学

三宅:「飼料や薬剤の管理もかなり徹底されているとか」

上山さん:「ええ。うちは“与えない”ことを大事にしています。

つまり、**抗生物質や抗菌剤などの薬剤を一切使わない“無投薬飼育”**です。鶏たちは自然に免疫力をつけて育ちます」

三宅:「エサはどうされているんですか?」

上山さん:「全て自家配合です。ネギ、桑の葉、さつまいも、米、とうもろこし、小魚(ちりめん)など、有機原料を使っています」

三宅:「すごいですね…。土壌の管理もされているとか?」

上山さん:「はい。放し飼いの鶏舎の土壌は、残留農薬を徹底的に除去してます。環境そのものから、安全な状態をつくってあげるんです」

 

■ 広げるより、“志を届けたい”

三宅:「今後、この鶏をどう広めていきたいですか?」

上山さん:「“広げたい”というより、“志を届けたい”ですね。

味だけでなく、背景にある育て方・考え方まで伝わってほしい。

だからこそ、一緒にやるパートナーも、“理念でつながれる人”に限っています」

 

■ 最後に

三宅:「今日のお話で、“命と向き合う”という姿勢そのものが、この鶏に表れていると感じました」

上山さん:「ありがとうございます。

たった一羽の命が“感動に変わる”──それがあるから、この手間も苦労も、全部意味になるんですよ」

【編集後記】

“幻の鶏”とは、ただの希少な食材ではない。

その育て方、背景、信念──すべてをひっくるめて、“味”になる。

この鶏を味わうことは、一つの思想と対話することかもしれない。